コマツは我が国有数のモノづくり企業だ。
ダントツ経営と呼ばれる、泥臭いが手堅い経営で業績を
伸ばしてきた、日本を代表するエクセレントカンパニーでもある。
そのコマツの先を進むのが
建機業界世界首位の米キャタピラーだ。
キャタピラーの2013年度の売り上げは
約5.56兆円(556億ドル)
うち建設機械部門の売上高は4.05兆円(405億ドル)
対してコマツの売り上げは約1.95兆円で
うち建設機械部門の売上高は1.75兆円。
その差は2倍以上におよぶ。
キャタピラーとコマツの戦略や経営方針は異なる。
注目するのは防衛部門だ。
両社とも防衛部門を持っているが、そのあり方は
月とスッポン。
コマツは、防衛省頼みを脱して強化へ向けた投資をするか
それができないのであれば売却する、という経営判断
が必要だ。
結論から言えば早々に撤退をしたほうがいい。
その理由は
<1>防衛予算の縮小
<2>性能が低い
<3>輸出できない
<4>三菱重工との競合
<5>本業とのシナジーがない
戦車、榴弾砲、迫撃砲などの砲弾も製造
まずはコマツの防衛事業について概観しておこう。
コマツの防衛装備として一般に思い浮かぶのが
ニュースなどでも登場することが多い
96式装甲車や
軽機動装甲車などの装輪装甲車
あるいは民生品を転用したパワーショベルやドーザー
など施設科(工兵)向け装備だろう。
意外に知られていないのが戦車や榴弾砲、迫撃砲などの
砲弾だ。
金額的には
装甲車輛よりも砲弾の売り上げの方がおおむね2倍程度
上回っている。
だがコマツは自社のホームページで防衛(特機)部門の
紹介を行っていないため、コマツが防衛部門をもっている
ことさえ知らない株主も多いだろう。
平成24年(2012)度のコマツの防衛省の契約金額は294億円
契約高では7位の規模を誇る。
対して今から10年前の平成16年度は338億円で9位だった。
つまり売り上げは13パーセントほど落ちているものの
順位は上げている。
コマツの平成25年度(2014年3月期)の売り上げは
約1.95兆円だから防衛部門の比率は1.5パーセントだ。
過去数年
コマツの防衛省への売り上げは右肩下がりである。
コマツにはコマツ特機という子会社があり、同社は
装甲車の整備などを請け負っているが、売り上げ規模は
かなり小さい。
防衛予算は微減が続き、それに合わせて装備の高度化
による調達単価の高騰、維持修理費の高騰などによって
装備調達予算は毎年減り続けている。つまり防衛産業
自体が衰退産業といえるだろう。
しかも2013年度に策定された防衛大綱では戦車
火砲(迫撃砲除く)の定数がそれ以前の大綱の400両/門
から300両/門と25パーセントも減らされた。
大綱の定数削減はその大綱終了時に達成されれば
いいとされており
現時点では戦車、火砲とも600~700両/門程度存在している。
つまり現大綱が終了する平成35年度には実に戦車・火砲は
現状の半分以下に削減されるのだ。
当然、コマツが受注する砲弾の数は激減することになる。
生産数が減れば生産コストが高くなり、調達数が益々
減るという悪循環に陥る。
現在コマツでは単価の高い精密誘導砲弾を開発中だ。
これはINS/ GPSで誘導し、終末誘導をレーザーで行うもの。
諸外国ではすでに実用化されているが、一般に調達単価
は通常弾の10倍以上もする。生産量は通常弾よりも少ない。
これをわずか300門の火砲のために生産するならば
諸外国の同等品に較べて、数倍はコストが高くなるだろう。
輸出を前提に数量を確保しない限り、事業として成立
させるのは極めて難しい。
国産装甲車輛単価は海外同等品の約3倍
日本の装甲車輛はコマツの生産している96式装甲車や
軽装甲機動車も含めて調達単価はおおむね諸外国の
同等品に較べて約3倍である。
しかも防御力は96式や軽機動装甲車などはNATO規格
であるSTANAG 4569のレベル1程度。諸外国では
レベル2~4程度が当たり前だ。
特に地雷に極めて弱い。96式に至っては下部が凹型に
なっており触雷の被害を増大させてしまう。
近代化して装甲を強化しようにも、エンジンのパワーや
車幅の問題もあり極めて難しい。
更に道路外走行能力が低いなど性能的にも問題がある。
とても諸外国に軍用装甲車として売れるレベルの製品と
はいえない。
これはメーカーであるコマツだけの責任ではない。
ガラパゴス化した陸幕の要求仕様によるところも大きい。
いずれも陸自向けに開発した装甲車は輸出しようにも
買い手がいない。
そこに、さらに襲うのが、過去の棲み分けの崩壊だ。
これまで、長年にわたって陸自の装甲車両は
装軌装甲車は三菱重工業と日立製作所、装輪装甲車
はコマツという形での役割分担がなされてきた。
ところが、現在開発中の105ミリ戦車砲を搭載した
8輪装甲車、機動戦闘車は三菱重工とコマツが争った
結果、三菱重工が契約を獲得した。
防衛省は
来年度予算で陸自の96式装甲車の後継車輛の
「装輪装甲車(改)の開発」(改良とあるが実際は新規開発)
として、新型8輪装甲車の開発費を48億円計上している。
コマツと三菱重工のいずれかが受注すると見られているが
三菱重工はすでに開発した機動戦闘車の派生型を
これに投入すると見られている。
機動戦闘車の派生型ということでコストを低減できること
をセールスポイントにするのだろう。
コマツも先の陸幕長である君塚栄治氏を顧問に迎えて
プロジェト獲得を目指している。
陸自には他に新規の装甲車輛のプログラムは無い。
そのため、このプロジェクトを獲得できなければ、コマツの
装甲車輛の売り上げは大きく減じるだろう。
いずれにしても、防衛省の調達規模では
装甲車輛メーカー2社を養える規模ではない。
コマツの広報は防衛装備関連の取材には応じない。
そのため広報に対して確認をすることはできないが
関係者に取材する限り、同社は砲弾にしろ、装甲車にしろ
輸出するつもりはない。
民間転用が容易な建機の類の輸出用軍用モデルの
開発についても同じだ。
もう一つの大きな問題は本業の建機部門と、特機部門
とのシナジー(相乗効果)が極めて小さいことだ。
つまり特機部門で開発した技術やコンポーネントが
本業の建機に寄与することも、建機の技術が特機部門
に寄与することも少ない。
コマツにとって防衛部門は単なるお荷物、という扱いに
なっているのだろう。
だが同社の経営陣は特機部門の売り上げ向上や採算性
の向上、持続可能なビジネスモデルの構築などには
無関心であった。
長年これにテコ入れすることも、撤退、あるいは他社と
の事業統合なども行ってきていない。
情報開示をしていないことが奏功しているのか、株主
からのプレッシャーも少ないようだ。
今年から武器禁輸が緩和されたが、先述のように積極的
な輸出をする気も無い。
ただ、ひたすら防衛省の売り上げに頼っているだけだ。
特機部門は誇れない事業?
同社は多くの防衛(特機)部門を抱える企業と同様に
世間体の悪い、誇れない事業のように扱ってきた。
歴代社長が特機部門に要求してきたのはひたすら
収賄などのスキャンダルを起してくれるな、ということ
ばかりだった、と複数のコマツ関係者は証言する。
だから輸出を志向しないのは、当然といえる。
防衛省向けのビジネスはまだしも世論の理解を
得られるにしても、輸出をしてしまえば、「死の商人」
と指弾されるとの思いもあるのだろう。
そんなコマツとは対照的なのが米キャタピラーの防衛部門だ。
キャタピラーの防衛部門は輸出事業として成り立って
おり、本業である建機とのシナジーも大きい。
キャタピラーは
世界の軍隊に建機類(装甲化されたタイプも含む)を
販売しているのみならず、軍用ディーゼル・エンジンの
メジャー・プレーヤーである。
装甲車輛用では
装甲車輛やトラック用のディーゼル・エンジンは
275~700馬力以上のエンジンを世界の軍隊に提供
している。
エンジンのみならず、エンジンとトランスミッションを
組み合わせたパワーパックの販売も行っている。
キャタピラーは1998年にエンジンサプライヤーだった
英国のディーゼルエンジンメーカー、パーキンスを
買収、子会社化している。
同社は英内外の戦車1500馬力エンジンまでを含む
装甲車輛やトラックにディーゼル・エンジンを供給している。
同社の買収が軍用エンジン・ビジネスでのキャタピラー
のシェアを大きく押し上げたといって良いだろう。
キャタピラーのエンジンは
米軍のストライカー装甲車シリーズの他欧米、途上国
などでも多く採用されている。
更に同社は
海軍や沿岸警備隊用にもディーゼル・エンジンを供給し
ている。
ダイキンや三菱重工に売却すればいい
コマツは、キャタピラーのような事業展開を目指すつもり
はないようである。
であれば、防衛産業から撤退してその資源を本業に
つぎ込むべきだろう。
例えば
砲弾関連はダイキン、装甲車輛は三菱重工に売却する
などし、防衛関連は民間品である建機の転用程度に
留めるべきだろう。
中途半端な特機部門の事業規模では早晩、研究開発も
設備投資もできなくなる。
事業規模を無視して、過大な研究開発や設備投資を
行えば、株主の理解は得られないためだ。その結果
世界の一線に匹敵する製品を開発、生産することは
ますます困難になっていく。
性能面で劣り、価格が何倍もする製品を防衛省に納め
続けることはコマツにとっても、その株主にとっても
また一般の納税者にとっても利益のあるところではない。
また日本の防衛産業の常として、株主や社会に対して
自社の防衛産業の実態を必要以上に隠すので
世論や株主が議論を行うベースとなる情報を提供していない。
これは防衛省の顔色を覗ってのことだろうが、上場企業
として公的責務の放棄ともいえるのではないか。
コマツを含め防衛産業の経営陣は防衛省の顔色だけ
を気にするが、防衛装備は税金で調達されている。
つまり株主含めた納税者に対して説明責任があるわけ
だが、その意識が欠如している。
坂根正弘相談役をはじめ、近年のコマツトップの経営
能力の高さには定評がある。
だがその優れた経営者たちがこと防衛部門のことに
なると思考停止、情報を社会提供しようともせず
問題先送りを続けているのは極めて不可解だ。
コマツだけでなく、防衛産業を抱える多くの日本企業に
共通する宿痾といってもいい。この際、コマツは
先んじて事業再編への行動をとるべきだろう。
コマツ、防衛産業から撤退へ
・・(^。^)y-.。o○。
自衛隊の車両の開発・製造を手がけてきた
建機大手の小松製作所(東京都)が自衛隊車両の
新規開発事業を今後は行わない意向を防衛省に
伝えていたことがわかった。
開発コストに見合う利益が見込めず、開発・製造態勢の
維持が難しくなったのが理由という。
防衛関連企業の大手が事業中止に至るのは異例で
国内産業基盤の維持・強化を掲げる政府にとって
痛手になりそうだ。