「女性のためのバイクは女性だけでつくろう」。車体や構造に大きな変更は
加えない一部改良とはいえ、女性だけで二輪車開発を行うのは同社初の試み
仕掛けたのは、デザイン担当の静亮次さんだ。
ビーノの開発を通じ、社内で“なでしこトリオ”と呼ばれるようになったカラー
リングデザイン部の東海林ルミさんと永田智美さん、販売子会社「ヤマハ発動
機販売」MC営業企画部の菊地真由美さん。
3人が初めて顔を合わせたのは23年夏だった。
きっかけは、ライバルであるホンダ「ジョルノ」の12年ぶりの復活だ。
女性向けスクーター市場という少ないパイの中で、シェア争いが過熱し、「女性
ならではのセンスを生かし、突破口を見いだしたかった」と静さんは言う。
3人は、顧客がビーノに何を求めるのか洗い出しを始めた。「かわいらしさ」
「ボーイッシュ」「クール」「ポップ」…。
東海林さんは「キーワードを書き出したホワイトボードがたちまち真っ黒に
なった」と振り返る。
ユーザーの声を聞こうと、3人で市場調査にも出かけた。「大学の駐輪場で
二輪車に乗る女子学生を待ち構えて話を聞いたこともあった」
3人が出した結論は、「バイクに乗るのは、アクティブ(活動的)な女の子」。
これまで、男性開発陣が「女性はピンク」などと決めつけていた車体の配色も
変える。
バイクに乗る女性が本当に好む色を探した。
フランス国旗に使われる赤、青、白が基本の3色の組み合わせが、活発な
女性がみて「かわいい色」。
3人の意見は一致した。
だが、3色使いは、単色に比べて高くつく。ただでさえ、ビーノの価格はホンダ
のジョルノよりも3万円ほど上回り、値上げはできない。
コストを抑えるため、「台湾の生産子会社と何度も交渉を繰り返した」
(東海林さん)。
それでも、配色は一切妥協しなかった。部材の仕入れにかかるところからコスト
を見直してもらい、何とか販売価格を維持することに成功した。
そして昨春、試作色のモデルを社内で披露するところまでこぎつけた。
3色の斬新なデザインは、新鮮な驚きを持って受け入れられた。
一方で、一部の男性社員や販売店オーナーからは、「派手すぎる」「なぜ定番
のピンクがないのか」との厳しい意見も出た。
静さんと、なでしこトリオは、綿密な市場調査の結果やコスト削減への努力を
粘り強く説明した。
その結果、「社内のムードも、なでしこを応援するものに変わってきた」
3人は、販売戦略でも工夫を凝らした。ビーノとデザインを統一させた
ヘルメットやランチバッグをつくり、キャンペーンで購入者にプレゼントした。
永田さんは「スクーターだけかわいくても、ヘルメットが従来の無機質なもので
は台無し。
女の子はトータルコーディネートが重要ですから」と話す。
菊地さんによれば、2月の発売後は、「在庫がなくなるほどの売れ
行きが続いた。
『色がかわいいので待ってでもほしい』というお客さまも多い」という。特に
濃い赤と青、白に近いベージュの3色で塗装された「ダークグレーイッシュ
ブルーメタリックA」は一番人気。
ビーノシリーズは1~3月で前年比6%増を記録した。
「よくやってくれた」。仕掛け人の静さんは、予想以上の結果を出した3人に
引き続き新たな商品企画を託した。
7月1日には、3人が手がけた第2弾「ビーノ バケーションスタイル」も
限定1300台で発売する。
マリンテイストのさわやかなデザインで、夏にぴったりの1台。現在は26年
モデルの企画のまっただ中で、なでしこの奮闘は続く。
ビーノ(Vino)
平成9年発売。女性デュオ「パフィー」を起用した宣伝が好評で、女性ユーザー
が7割を占めるヒット車種になった。
Vinoは、イタリア語でワインの意味。
16年にはエンジンを大幅に改良し、環境性能を高めた。
価格は19万3200円(税込み)から。米国をはじめ、海外でも販売している。
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