環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉の閣僚会合は10日
来年1月の閣僚会合再開を盛り込んだ共同声明を発表し閉幕した。
関税全廃にこだわる米国の圧力に対し、日本側は農産物の
「重要5分野」586品目のうち守るべき品目を選別し、そこは一歩
も譲らない姿勢を貫いた。
交渉の早期妥結で米国と連携
しながらも、厳しい交渉は続く。
◆米国を側面支援
「来月に閣僚会合を開くべきだ」
閣僚会合の会場となったシンガポールのホテルの会議室。
西村康稔内閣府副大臣は10日、参加12カ国の閣僚らに
来年1月の会合再開を提案した。
「年内妥結」の断念で、交渉全体の勢いがしぼむことを避ける
のが狙いだった。
日本政府は米国と歩調を合わせ「年内妥結」を目指してきた。
米国と連携して一気に交渉をまとめ、日本の農産品の関税維持を
図ろうとしたからだ。
それだけに、妥結先送りは避けたかった。
そもそも、日本は交渉全体の空気を読まない米国を支えてきた
面もある。
「首相、会議に参加すると表明し
てください」
甘利明TPP担当相は10月上旬、前回の閣僚会合が開かれた
バリ島から安倍晋三首相の携帯電話を鳴らした。
交渉を牽引(けんいん)する米通商代表部(USTR)の
フロマン代表が、閣僚会合に続く首脳会合にオバマ大統領が
欠席することを突然通告したからだ。
他の参加国に困惑が広がったが、フロマン氏は素知らぬ顔。
交渉妥結に向けた機運は失速しかねなかった。
そこで甘利氏は安倍首相の出席をいち早く約束し、各国首脳
が出席しやすい環境をつくろうとした。
◆執拗な全廃圧力
だが、日本にとっての難敵は、その米国だった。
菅義偉(すが・よしひで)官房長官は今月1日、甘利氏や
林芳正農林水産相とともに、来日したフロマン氏と都内のホテル
でテーブルを囲んだ。
関税全廃を求めるフロマン氏に対し、菅氏はこう反論した。
「(安倍政権の)公約だから日本は
譲れない!」
話し合いは平行線をたどった。政府高官は「米国は安倍政権の
支持率が高いから何でもできると思っている」と振り返る。
米側の圧力は自民党にも向けられた。
西川公也TPP対策委員長は11月中旬、密かに都内の
米公使公邸を訪れた。
待っていたのはカトラーUSTR次席代表代行だった。
「韓国は米韓自由貿易協定(FTA)でナシとリンゴの関税を
20年かけて撤廃する。
日本は重要5分野を全て守ったら関税自由化率は93・5%に
とどまる。それでいいのか」
カトラー氏は関税を段階的に引き下げる案を示しながら
関税全廃を受け入れるよう執拗(しつよう)に迫ってきた。
西川氏は「妥協点は一つもない」と感じ
「日本の自由化率は明言しない。次回の閣僚会合で一発勝負を
やりましょう」と伝えた。
◆「言うこと聞け」
米国を側面支援しながら交渉の主導権を握り、関税の聖域を
守ろうとした日本だが、結果として米国の強硬姿勢が壁となった。
安倍政権は、TPPでアジアの新しい経済ルールを構築し
東南アジアで活発な経済外交を展開する中国の牽制(けんせい)
を狙った。
TPPを経済成長や日米同盟の強化につなげたいとの思いも強い。
TPPの合意がこれ以上遠のけば、そうした目算が狂うだけでなく
安倍政権の支持率低下につながりかねない。
「ちょっとだけ年上なんだから
俺の言うことを聞けよ」
西村氏と同じ51歳で2カ月だけ誕生日が早いフロマン氏は
妥結先送りが決まった10日の閣僚会合が終わると、西村氏に
そう耳打ちした。
すぐに西村氏は切り返した。
「それは2カ月だけ。交渉は対等だ」
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