先月24日の中国上海株の急落は、経済崩壊のドミノ倒しの始まりを意味するの
ではないのかと思う。
急落の直接の原因は中国の各銀行が深刻な資金不足に陥った中で、銀行間
融資の短期金利が急騰したのに対し、中国人民銀行(中央銀行)が資金供給
などの救済措置を取らず、傍観したことにある。
問題は、中国の銀行がなぜ一斉に「金欠」となったのかであるが、要するに各
銀行が預金者から預かっているお金を、無責任な放漫融資に出し
過ぎたからである。
4月25日付の本欄は中国における「投資中毒症」の蔓延(まんえん)を指摘
したが、全国規模の過度な投資拡大を支えてきたのはまさに各銀行の
放漫融資だ。
しかし、むやみな投資拡大が莫大(ばくだい)な不動産在庫や企業の生産
過剰を生み出した結果、投資への銀行融資の多くは回収不可能な不良債権
と化していった。貸し出した資金が回収できなくなると、各銀行は当然
資金不足に陥ってしまう。
このようなことは今までにもよくあったが、前任の温家宝政府の時代は
一般の銀行が「金欠」となると、中央銀行がすぐさま彼らに救済の手を差し伸べ
無制限の資金供給を行った。
その結果、中央銀行から放出された貨幣量は洪水のようにあふれ、深刻な流動
性過剰を生み出した。
「金融バブル頼り」の中国経済は常にインフレ再燃の危険性にさらされることに
なったのである。
食品を中心とした物価の高騰=インフレが一旦再燃すると、貧困層のより
いっそうの生活苦によって社会的不安が拡大し、政権の崩壊につながる
危険性さえある。
温氏の後を継いだ今の政府はようやくこの危険性に気がついたようだ。
だからこそ中央銀行からの資金供給を抑制する方針を固めたのだが、それで
は各銀行の「金欠」が今後も続くこととなるから、一連の「恐ろしい連鎖反応」
が始まる。
「金欠」となる各商業銀行は保身のために今後、企業に対する融資をできる
だけ減らしていく方針であろう。
特に担保能力の低い民間の中小企業への貸し渋りは必至だ。
そうなると中国の製造業の大半を支える中小企業の経営難はますます深刻化
してしまい、すでに始まった実体経済の衰退に歯止めが利かなくなる。
これまで各銀行から出た資金の一部は「影の銀行」を通して各地方政府に
流れ、彼らの開発プロジェクトを支えてきたが、今後、こうした「闇の資金」の
水源が正規の銀行の資金引き締めによって止められると、後にやってくる
のは「影の銀行」の破綻による金融危機の拡大と、多くの地方政府の
財政破綻であろう。
「金欠」となった各商業銀行は今後、深刻なバブルと化した不動産部門へ
の融資も大幅に減らすに違いない。
回収期間の長い個人住宅ローンも当然融資抑制の対象となる。
そうなると、資金繰りが苦しくなっていく不動産開発業者はいずれは、手持ち
の不動産在庫を大幅に値下げして売り出し、投資資金の回収に励むしかない。
その一方で、住宅ローンが制限される中で不動産の買い手がむしろ減っていく
から、その相乗効果の中で不動産価格の暴落は避けられない。
今までは金融バブルの中で何とか延命できた不動産バブルは今度こそ
崩壊の憂き目に遭うであろう。
中国の著名な経済学者・馬光遠氏は先月26日「(経済危機の)次の爆発地点
は不動産部門だ」と警告を発した。
不動産バブルの崩壊は当然、さらなる金融危機の拡大とさらなる実体経済の
衰退を招くから、経済の果てしない転落はもはや止められない。
「世界第2位」を誇ったこの国の経済はすでに、地獄への入り口に立たされて
いるのである。
中国経済が変調を来している。上海株式市場の株価が、連日のように今年
の最安値を更新している。
銀行間で貸し借りする際の取引金利が急騰したことで、中小銀行の資金繰りが
悪化し、経営破綻が相次ぐ懸念が広がったためだ。
中国はこれまでも成長鈍化が懸念されてきたが、今回の金融不安は一段の
景気減速を示唆する。
中国経済が揺らげば世界経済への打撃は深刻だ。中国発の危機を避ける
ためにも、習近平政権は不安を解消しなければならない。
世界第2位の経済大国として、中国が果たすべき当然の責務である。
上海株下落は、最近の中国で問題視されてきた金融取引「影の銀行
(シャドーバンキング)」による負の影響が大きい。
金融機関が正規の貸し出し以外で運用することを指す。
その一種である高利回りの財テク商品が6月末に大量の償還期を迎え
銀行の資金繰りが大きな焦点になっていた。
一党独裁の国家資本主義である中国では、預金や貸し出しの金利をがんじ
がらめに規制し、銀行を管理している。
シャドーバンキングが活発化する背景だ。
財テク商品で集めた資金は、採算性の低い地方政府の開発事業や経営
不振企業にも流れ、不良債権化が懸念されている。
中国人民銀行(中央銀行)はシャドーバンキングによる余剰資金の是正に
動いている。
方向性は正しいが、蛇口を締めるだけでは、銀行の資金繰りが立ちゆかなく
なる難しさがある。
中国では経済統計の信頼性が疑問視されるように、シャドーバンキングの実態
もよく見えない。好成績を誇示したい地方政府などが収益性無視で過剰投資に
走れば、破綻したときの影響は甚大だ。
海外から疑心暗鬼の目が向けられないよう、習政権は、銀行が簿外でかか
わるシャドーバンキングの実態について透明性のある情報開示に
努めてもらいたい。
計画的な不良債権の処理も必要だ。その際には企業淘汰(とうた)などの痛み
も伴うはずで、急激な景気悪化を避ける配慮が欠かせない。
中国に進出する日本企業も、こうしたリスクは当然、認識すべきだ。金融不安
が実体経済に波及する最悪の事態に備えることだ。
中国のいびつな経済構造が改まらなければ、大きな代償を払わされることを
忘れてはならない
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